太極拳の道」へもどる
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 呼吸法は中国の一流の先生達の間でも、その流派やその先生の考え方一つで、異る見解が多々あります。そこで、今回はそれらの統一できる部分をひろってまとめてみました。特に、現在皆さんが学んでいる套路形式の練習法(24式、88式などのように、はじめから終りまでを通しておこなうもの)の呼吸法を中心にまとめました。


 初心者はまず自然の呼吸状態を保つようにする。舌の先を上アゴにつけ、背すじをまっすぐにして鼻から吸い鼻から出す。深く、長く、細く、均一にするよう心がけ、動作と特に約束をもたせない。吸いたい時に吸い、呼きたい時に呼く。又、起勢など簡単な動作を用いて呼吸法を重点に練習する時は、吸気のおえる寸前で、肛門をひきしめ、呼気にうつった時に肛門をゆるめる。


 動作に熟練してきたら、「拳勢呼吸」をも用いる。この「拳勢呼吸」とは、自然に逆らわないことを原則に、動作の性質や勁力の大きさ(太極拳でいうカ エネルギー)に呼吸を意識的に合せていくことをいう。すなわち、動作の特徴(胸腔が広がるか、狭まるか)や性質(その動作にどのような意味があるのか)によって呼吸の速度と、呼気・吸気とのどちらかをきめる。具体的には次のように行う


 @一つの動作がまとまる寸前では、勁力を充実させ、全身を落ち着かせ安定させなければならないので、呼気にする。体型としては、肩を沈め、胸部を虚の状態にし、腹部を実の状態にする(自分の意識も下腹部におく)。
 A一動作が終った直後や動作の途中ではどのようにするのか?次の二つの場合が考えられる。
 a.勁力を外部にあらわさず内部に潜め、軽快感や敏捷性をあらわす場合は吸気にする。体型では、肩甲骨が外側に開き、胸腔が広かった状態になっていく時である(実→虚の状態)。
 b.沈着性、安定性、堅強性をあらわす場合は呼気とする。体型においては、肩甲骨が内側へ引きこまれ、胸腔が狭くなっていく状態の時である(虚→実の状態)。 このことを「開で吸気、合で呼気」といい、人体の呼吸機能に合致した方法である。
 「拳勢呼吸」の運用は絶対的ではない。長く、また、複雑な動作がつながっている太極拳の各套路をはじめから終りまで「拳勢呼吸」のみでつないでいくのは不可能である。どうしても、呼吸のリズムが乱れる箇所がでてきたら、呼吸を自然の節理にまかせてしまうか、短めの呼吸を入れることにより調節してしまう。機械的に統一を求める必要はない。病弱な人は、とくに気をつけないと身体の健康を損ねてしまうので注意を要する


気沈丹田を行うというが、気をいつ、どのように丹田へ沈めるのかが問題である。套路の練習では、一つの動作がまとまる寸前、すなはち胸部が虚となり、下腹部が実となる時に、自分の意識を下腹部に集中させる。そうすると、下腹部にある種の充実感のようなものを覚えてくる。このことが気を丹田へ沈めるということである。太極拳を長年つづけ、気を丹田に沈めることに長ずると、下腹部に熱感をおぼえてくる。又、気を丹田に沈めることをあまり強調してしまうと、腹部に力を入れ、緊張させてしまうような人がでてくる。決して腹部に力を入れてはいけない。意識のみを注ぐことに注意するよう心がけるこの鍛練は、あせらずに、長い時間をかけておこなうようにしたいものである。 


当会では、太極拳の前に、八段錦を練習するのであまり必要ではないが、本来なら、套路の練習前に呼吸法を簡単な動作「起勢」や「雲手」などを用いて数分練習することが好ましい。
 横隔膜の上下運動が円滑に行われるように「含胸抜背」「沈肩垂肘」「尾圧正中(頭から尾骨までを 一直線上にたてる)」などの姿勢に気をつけるて行うようにする。


私の失敗!
 以前、呼吸のまずさから、練習後、上腹部(胃のあたり)に膨満感や痛みをおぼえ、嫌な気持になったことがあります。一生懸命練習すればするほど重くなるのです。二度ほど失販しましたが、その中の一つを紹介します。それは、「逆式呼吸法」を練習している時におこりました。「逆式」とは、吸気で下腹部をひっこめ、呼気で突出させる方法をいいます。皆様がおこなっている呼吸法は一番自然に沿ったもりで順式呼吸法といいます(吸気時に下腹部を突出させる)。書物に、呼吸法がある程度上達してきたら腹鳴が生ずるようになると書かれていましたので、この腹鳴ができるようにとセッセセッセと練習しました。その内に、腹部に力を加えると腹鳴が生じやすいことに気がつき、大いに喜こんで練習を繰り返しました。‥‥‥雑念ながら、数日後、上腹部に膨満感が生じ、一ヵ月以上もその不快感がつづきました。皆さん!決して、腹部に力を入れてはいけません。また、上手になろうとあせってもいけません。徐々に徐々に一歩一歩、進んでいくことが最高の方法だと思います。